がん治療におけるNK細胞(ナチュラルキラー細胞)培養上清液について

がんに対するNK細胞療法とは

NK細胞は「細胞性免疫細胞」とも呼ばれます。細胞性免疫は、抗体を介さずに免疫細胞そのものが細菌やウイルスなどの病原菌やがん細胞を直接攻撃するしくみのことです。細胞性免疫が抗体を介さないのに対して、抗体が中心になって敵を排除する免疫のしくみを液性免疫といいます。

NK細胞はその強い殺傷能力から、がん治療に利用されています。NK細胞療法とは、患者さんの血液から採取したNK細胞を増殖・活性化させて、点滴注射で身体に戻すことにより、より高い殺傷能力でがん細胞を攻撃する治療法です。

具体的には、まず患者さんの採血した血液からNK細胞のみを分離させます。 その後、分離したNK細胞を培養液を用いて増殖、活性化させます。最終的には、だいたい2週間の培養期間で、NK細胞数が数百~数千倍となります。培養後のNK細胞の量は約10億個ともいわれていますが、それを患者さん自身の体内に戻す方法を繰り返すというものです。

費用は施設によってまちまちですが、6回施行で治療効果を判断しているところが多く、6回で200万から300万円くらいの費用がかかるようです。細胞の培養に費用がかかるため高額となります。

今回はNK細胞培養上清液(NK細胞由来のエクソソーム)というものが海外ではがん治療に有用であるいう報告が数多くあり、その状況について述べたいと思います。おそらく既存の治療法よりもコストをかなり安くできるはずです。

培養上清液とは

幹細胞培養上清液とは、体内に存在する脂肪など間葉系幹細胞と分類される幹細胞を培養し、その培養液から幹細胞を取り出して滅菌等の各種処理を行った液体(上澄み液)のことを言います。培養上清液には細胞成分はありません。幹細胞は細胞自身が活性化・成長・増殖するために「サイトカイン」と呼ばれる500種類以上の生理活性タンパク質を放出しています。

培養上清液には細胞自体が入っていないので、他人の細胞で培養した液でも、拒絶反応などの安全性にはほぼ問題ないのではといわれています。

細胞の活性に欠かせないサイトカインや成長因子を多く含み、損傷を受けた体内組織や細胞が機能を回復させる効果があります。加齢による細胞の劣化を抑える、炎症を抑える抗炎症効果、組織や神経を修復させるといった効果が期待できます。そして、がん治療にも応用できると考えます。

現在、幹細胞培養上清液は歯髄由来、骨髄由来、脂肪由来、臍帯血由来の4種類が中心です。

細胞培養上清液とエクソソームの違いについて

幹細胞培養上清液とは、培養中の幹細胞から取り出した培養上清液のことで、幹細胞から分泌されるさまざまな成分が含まれています。細胞成分は取り除かれます。幹細胞を培養する過程で放出される培養上清液であり、サイトカイン(成長因子)、ホルモン、細胞外マトリックス、RNA、エクソソームなどが含まれています。

幹細胞培養上清液は、幹細胞を増殖させ、分化させるための環境を提供するために用いられます。その液の中にいろいろ入っているのです。

一方、エクソソームは細胞が放出する非常に小さな細胞外小胞子で、直径が40〜150ナノメートル程度のものです。細胞内の機能分子や情報を含んでおり、細胞間相互作用、細胞内通信、代謝の調節などに関与しています。

エクソソームは、細胞培養上清液から分離することができます。このエクソソームはNK細胞に対して、がん細胞を殺すタンパクである、グランザイム、パーフォリンを飛躍的に量産させる働きがあるといわれています。

NK細胞由来のエクソソーム

がん細胞からのエクソソームの研究は以前からありましたが、正常の細胞から放出されるエクソソームの機能については、最近になってかなり研究されてきました。造血細胞由来のエクソソームについてはいくつかの研究が行われていますが、NK細胞のエクソソームについては、自然免疫および適応免疫における重要な細胞であり、最近になり欧米では多くの報告があります。

健康なドナーの血液から採取したNK細胞の培養上清液には、NK細胞の典型的なタンパク質マーカーを発現し、がん細胞に効果のあるキラータンパク質(パーフォリンなど)やエクソソームが含まれていることが証明されています。

このエクソソームは、腫瘍細胞株や活性化免疫細胞に対しては細胞傷害活性を示しますが、正常細胞や、活性化していない免疫細胞、正常細胞に対しては、細胞障害性は示さないということも報告されています。

また、NK由来のエクソソームは非常に小さい分子のため、悪性腫瘍細胞に取り込まれ、抗腫瘍効果を発揮しますが、正常の単核細胞には取り込まれないこともわかっています

NK細胞由来のエクソソームの抗腫瘍効果の期待

NK細胞は、転移性悪性腫瘍や血液の悪性腫瘍に対してすばやく免疫反応を示し、NK細胞の抗腫瘍特性を臨床的に利用できるよう研究がなされてきました。しかし、NK細胞由来のエクソソームの特徴や機能については、まだ不明な点が多いといわれています。

皮膚のがんで転移も起こしやすい悪性黒色腫に対するNK細胞由来のエクソソームを介した抗腫瘍効果の研究報告があります。この実験では、がん細胞に対するNK細胞のエクソソームが悪性細胞に細胞死(アポトーシス)を誘導することが確認されています。動物実験では、悪性細胞の異種移植モデルを用いて免疫療法効果を検討すると、NK細胞由来のエクソソームは2種類の典型的なエクソソームタンパク質、パーフォリンとFasLという2つの機能的NKタンパク質を発現していることが証明されたというものです。

パーフォリンとは、標的細胞の細胞膜に孔を開けるタンパクで、がん細胞を壊ししてしまう細胞障害性タンパクのことです。グランザイムは、がん細胞を細胞死に誘導する蛋白分解酵素のことで、やはり細胞障害性タンパクといわれています。

Fasリガンド(FasL)とは、細胞傷害性T細胞表面に発現している膜貫通タンパク質のことで、標的細胞(がん細胞)のアポトーシスを誘導するものです。このエクソソームは正常な健常細胞に対しては、副作用を示さなかったと報告されています。

自家か他家か

培養上清液は、現実的には他人のNK細胞を培養して作製されたものですが、やはり自分のものがいいのではということは、だれも感じることだと思います。

2017年の中国からの報告ですが、再発乳がんに対するNK細胞免疫療法の臨床研究です。登録基準を満たした患者36人を自家NK細胞免疫療法群(I 群、n=18 )と同種(他人)NK細胞免疫療法群(II群、n=18)の2群に無作為に割り付けています。臨床効果、QOL、免疫機能、循環腫瘍細胞(CTC)レベル、その他の関連指標が評価されました。

その結果、同種NK細胞免疫療法は自家療法よりも臨床効果が高いことが判明した。さらに、同種NK細胞免疫療法はQOLを改善し、CTC数と腫瘍マーカー発現を減少させ、免疫機能を有意に増強したとう報告です。つまり、自分のものより他人のほうが効果があったという報告です。

国内の現状

国内の研究施設でNK細胞の培養上清液を作成し、その液の中の成分を調べたところ、成分としてエクソソームをはじめ、グランザイムやパーフォリンなどの細胞障害性タンパクが入っていることがわかっています。定量的な測定は今後になると思います(図1)。

今後、これらをがん治療に応用したとして、どういった悪性腫瘍に効果があるのか。さらに、その投与量、投与間隔、副作用なども検討が必要になると思いました。

おわりに

NK細胞からエクソソームを単離することに成功し、その中にNK細胞のがん治療に有用な成分が含まれていることはわかってきました。NK細胞由来のエクソソームは、がん細胞に対する免疫療法の新しいアプローチとして適していると思いました。

安全性を確立していけば、NK細胞の培養上清液は副作用の少ない、がん治療の選択のひとつになりえると感じました。

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