遅延型アレルギー検査

アレルギー

免疫システムは身体に害を与えるものを排除する役割を担っています。新陳代謝に危険や攪乱作用を起こす物質ひとつひとつに対して免役システムは免疫グロブリン(抗体)というものを作り出しますが、この抗体は防衛措置の一環として著しい炎症というプロセスを介在させます。
本来ならば身体に害を与えないものに対しても免役システムが過剰に反応してしまうと、アレルギー反応(または過敏性)が発生します。そしてそのアレルギー反応を起こす物質をアレルゲンと呼びます。
アレルゲンには、花粉、化学物質、動物の鱗屑、カビ、酵母菌、細菌、食物などがありますが、世界に存在するあらゆるものは免疫システムを刺激して活性化させる可能性を持っています。無限とも言える環境のアレルゲンが、アレルギー反応(または過敏性)を発生させる可能性があるのです。

アレルギー研究の歴史

1905年、イギリス環境医学の精神科医であるフランセス・ハレ博士は、痛風や湿疹等のいくつかの症状が食物と関係していること、そして問題の食物を取り除くことで症状が最終的には治ることを発見しました。これが食物アレルギーに関する最初の言及だとされています。
翌年の1906年には、ウィーン在住のフォン・ピルケー医師が「変貌した反応性」を意味する「アレルギー」という言葉を初めて使い、アレルギーを持つ人は環境における何かに過剰反応していると発表しました。
そして研究が進んだ現在、アメリカの全人口の25%が何らかの食物・化学物質・吸入抗原などに対する顕著なアレルギー反応を持っているとされています。あまり顕著ではない一時的な不安感、関節痛、全身疲労、むくみといった症状を含めた場合は、アレルギー発生率や不耐性はさらに高くなるとされています。

そんな中で、原因のよくわからない体調不良などに関して、遅延型の食物アレルギーが大きな原因となっていると指摘されており、注目を集めています。

遅延型アレルギー

一般的なアレルギーのイメージは、アレルゲンに触れてすぐじんましんやくしゃみ、鼻水などのアレルギー症状が現れるものだと思います。しかし、こうしたアレルギー以外に、アレルゲンに触れてかなり時間が経ってから症状が現れる遅延型アレルギーがあることがわかってきました。
遅延型アレルギーは症状が現れるまで時間がかかるため、アレルゲンがわかりにくいだけでなく、アレルギー反応が起こっているということ自体がわからず、原因不明の疾患や不調として治療を受けているケースがよくあります。
アレルギーの治療では、アレルゲンとの接触を避けることが鉄則です。遅延型アレルギーでも、アレルゲンである物質を避けることが症状の抑制には不可欠です。遅延型アレルギーは、普段何気なく食べている食品がアレルゲンになっている場合がよくあり、食べている時やその直後に症状が起こるわけではないので、本人にはその食品がアレルギーの原因となっていることはわかりません。そこで、当院では遅延型アレルギーの検査を行って、みなさまの健康に役立てていただいています。

アレルギーの原因

花粉やハウスダストなどはわかりやすいのですが、一般的な食品によって起こるアレルギー反応は、ウイルス感染や反復性の風邪と間違えられることがあります。そうしたアレルゲンには、牛乳、小麦、トウモロコシ、大豆、柑橘類、トマト、ピーナッツなどがあります。

喘鳴(ぜんめい)、鼻水、くしゃみ、過敏性腸症候群、湿疹やじんましん、目の腫れといったアレルギーの症状はよく知られていますが、疲労、頭痛、不安といった症状もアレルギーによって起こっている可能性があります。そして、その原因となっているアレルゲンとの関係に長い間気付かないこともよくあります。アレルギー反応の強さは、ストレス、反復性の感染、健康などの要因によって変化します。そのため、原因となるアレルゲンを見つけ出し、食生活から取り除くことが重要であり、それをしないと関節炎、胃腸病、自己免疫疾患、湿疹、片頭痛など、食物アレルギーに関連する深刻な症状が慢性化することにつながってしまいます。

フード(食物)による遅延型アレルギー

最近、体の不調の原因として、フード(食物)アレルギーが関わっていることが、注目されています。特に、アレルゲンとの接触後、数時間から数日経過してから症状が現れる遅延型と呼ばれるタイプのアレルギー、いわゆる「隠れアレルギー」の存在が明らかになってきています。
遅延型フードアレルギーは、症状の発現が遅いため、原因である食べ物に気付かないまま習慣的に口にしてしまい、それによる体調不良や疾患が起こっています。それで慢性的な症状を抱えながら原因がわからず、治療効果も思わしくないのです。
遅延型タイプの反応は比較的軽く、反応が現れるのが遅いため、一般的な問診などでは原因の特定が困難です。症状には、慢性疲労、関節炎、じんましん、湿疹、頭痛、むくみ、過敏性腸症候群、そして多くの慢性症状などがあります。こうした症状が遅延アレルギーによるものだとわからないまま放置されているのが現状です。また、なんとなく元気が出ない、起床時に疲れが残っている、体調不良や慢性的な疲労感が続く場合や、こうした症状で病院にいっても検査でこれといった異常が確認できないケースもよくあります。
こうした原因不明の不調や症状に悩まされている方が最近、当院に多くいらっしゃいます。そして調べてみると、意外な食品の遅延型アレルギーであることがわかり、それを避けることで回復されるケースが増えてきています。

IgE型とIgG型

IgE型(即発型)

アレルゲンに接触してすぐに症状が現れるのは、IgE抗体によるものであり、即発型です。特定のアレルゲンに反応した高レベルのIgE抗体により、アナフィラキシーショックなど、重篤なアレルギー反応が引き起こされる場合があります。症状としては、喉の腫れ、呼吸困難、じんましん、膨満感、胃痛・腹痛、喘息、突発性の下痢などがあります。
IgE反応は、アレルゲンへの暴露直後、15分以内に初期相反応が現れ、後期相反応が現れるのは4~-6時間後です。症状である浮腫や炎症は、数日にわたって続くケースもあります。

IgG型(遅発型)

血液中に最も多く存在する抗体です。炎症が起こるプロセスが数時間から数日間かかるため、遅延型と呼ばれています。過剰な抗原が発生することで抗原を体から排除しようとする免疫細胞の能力を飽和してしまうと、免疫複合体が長期間にわたって体内を循環するため、体組織への沈着が起こります。これにより慢性的でさまざまな症状が現れます。

日本では、即発型のアレルギー検査が主に行われており、遅延型アレルギーの検査ができる医療機関はまだ少数です。当院では食物IgG検査を行い、遅延型アレルギーに対する反応を検査しています。血液数mlだけの採血でできる検査です。

遅延型アレルギーの症状

即発型のアレルギー反応と違い、遅延型アレルギーの症状は多岐にわたります。また、メンタル面への影響や肥満との関連も指摘されてきています。

よくある症状としては、原因不明のじんましん、湿疹、過敏性腸症候群などがあり、慢性的な不調も遅延型の食物アレルギーが関わっている可能性があります。
肥満と遅延型フードアレルギーの関係は、アレルゲンにさらされた小腸が炎症を起こし、炎症や免疫に関わるサイトカインという物質の増加を起こし、それが脂肪細部にダメージを与えて肥大化させてしまうことで起こっていると考えられています。

具体的な遅延型アレルギーの症状

消化器系

消化不良、吐き気、嘔吐、過敏性腸症候群、下痢、便秘、膨満感、胃潰瘍、肛門掻痒、腹部のけいれん痛

泌尿器系

頻尿、排尿時の激痛と夜尿症(子供の場合)

精神的

極端な感情起伏、不安、ゆううつ、過食症、集中力不足、疲労、活動過多と不機嫌(子供の場合)

首と頭

耳感染、鼻詰まり、反復性の副鼻腔炎、頭痛、片頭痛、咽頭炎、口のびらん

喘息、不規則な心拍

筋肉と関節

筋肉痛、関節痛、関節の炎症、関節リウマチ

その他

水分貯留、体重増加、湿疹、じんましん、過剰発汗など

ご覧のとおり、あらゆる症状が食物アレルギーと関係しています。
しかし、これらのリストはあくまでも情報の一部にすぎず、考えられる可能性のすべてを網羅しているわけではありません。
従って、自分の症状がここに載っていないからといって、自分の症状は食物アレルギーに起因していないとは言い切れないのです。

遅延型アレルギー検査の流れ

数滴の血液を、採取させていただくのみです。検査シートに血液をたらして、乾燥させて、海外に送付します。96種類の食べ物についてのアレルギー反応をチェックします。
3-4週後に結果報告いたします。

治療

遅発型(潜在性)フードアレルギーが陽性に出た場合免疫反応を鎮静化するために原因となる食物を避ける必要があります。
強い反応が出た場合は、3〜6ヶ月、原因となる食物を完全に断つことが必要な場合があります。遅延型アレルギーになってしまうと、6ヶ月間アレルゲンを抜く必要があり、その食品を食べられなくなってしまいます。6ヶ月食べなければ腸内の抗体免疫が切れるからです。腸内の抗体免疫を作らせないためには、週4日以上同じ食べ物を食べないことが大切です。好きな食材は、メーカーの違うものを選んで食べるように指導します。
このことを、食物をローテーションするといいます。
ローテーションの目的は、同じ食物を頻繁に摂取することを防ぐことにあります。摂取の頻度が高いと、食物へのアレルギー反応が悪化することがあるためです。
上記と並行して、消化吸収機能を徹底的に改善する必要があります。
ぜんそくやアトピー性皮膚炎ではIgEが上昇していることが多いのですが、IgEが低値でも、この症例のように特定の食物に対するIgGが高値であることが比較的多く見られるといわれています。また、即時型と遅発型(潜在性)の両方のアレルギーを持っているケースも少なくないようです。

学会の見解

血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起として米国や欧州のアレルギー学会および日本小児アレルギー学会では、食物アレルギーにおけるIgG抗体の診断的有用性を公式に否定しています。その理由として、以下のように記載されています。

すなわち、

  1. 食物抗原特異的IgG抗体は食物アレルギーのない健常な人にも存在する抗体である。
  2. 食物アレルギー確定診断としての負荷試験の結果と一致しない。
  3. 血清中のIgG抗体のレベルは単に食物の摂取量に比例しているだけである。
  4. よって、このIgG抗体検査結果を根拠として原因食品を診断し、陽性の場合に食物除去を指導すると、原因ではない食品まで除去となり、多品目に及ぶ場合は健康被害を招くおそれもある。

以上により、日本アレルギー学会は日本小児アレルギー学会の注意喚起を支持し、
食物抗原特異的IgG抗体検査を食物アレルギーの原因食品の診断法としては推奨しないことを学会の見解として発表いたします。

参考文献: Stapel SO, et al. Allergy 2008; 63: 793-796.
Bock SA. J Allergy Clin Immunol 2010; 125: 1410.
Hamilton RG. J Allergy Clin Immunol 2010; 125: S284.
日本小児アレルギー学会ホームページ:
「血中食物抗原特異的IgG抗体検査に関する注意喚起」

平成27年2月25日
一般社団法人日本アレルギー学会
理事長 斎藤博久

大半の人と医師の多くが、いまだに体調不良や健康の衰えが食物に起因していると考えていないことは大きな懸念です。病気の原因を知らない限り、身体の苦しみは続きます。

食物アレルギーの発生率は広く争点となっています。10年程前、アメリカの人口の10%は免疫変調の食物過敏の影響を受けていると推定されていました。 そして食物アレルゲンの数は増え続けています。この増加に伴って臨床的適応はさらに複雑な症状に進化しています。

いずれの食物アレルギーの症状も非常に多様で多次元的です。

人は皆それぞれであり、同じ食物アレルギーでも現れる症状が大きく異なることがあります。いろんな症状が食物アレルギーからきている可能性があるという認識を高めることは必要です。ただし、他の病気が原因である可能性もあるということを心に留めておくことは重要です。

この検査の存在をしって、原因をつきとめ、体調が回復することができることを、祈っております。